第38回みちのく会 秋田大会レポ(2)
会場到着。(12/2/26,昼)
わたしを含めて秋田駅出迎えられ部隊は総勢3名。幹事団の心配りにはとにかく感謝。
車が走り出す。目的地までは10分ほど。人々の濃い会話がいきなり始まる。
「…さんが集めたエウピテキアが…」「あのスコプラにしたって…」。行き帰りの車の中で出し抜けに展開される話とは思えない。わたしだって一応蛾屋の裾野だから,「Eupithecia」がカバナミシャクで,「Scopula」がシロヒメシャクの類だぐらいのことは分かるけれども,分布のことや交尾器談義にはとてもついて行けないから黙って聞いている。詳細は全然分からない。
グニャグニャの道をグニャグニャ通って「秋田県森林学習交流館 プラザクリプトン」着。会場である。
命名の由来は杉の木の学名からとのことだが,普通の人は不活性ガスかスーパーマンか初音ミクしか連想しないだろう。
展示室があって,「野鳥の声が聞ける機械」がある。
2時開場。 持ち込み標本が並んでいる。恒例。これが楽しみ。
一面薄茶色の,一面のカバナミシャク。車中で話題だったやつだな。業界では「ゴミシャク」の異名を持つ,同定者泣かせの小型の地味蛾。わたしには特徴のはっきりした2,3種しか分からない。
それにしても,蛾屋の本性とは「飽くなき蒐集欲」と「秩序への渇望」であるようだ。わたしには前者が著しく欠落している。
名前を確認し忘れたまま撮影した蛾。
腹部がないのは壊れたのではなく,交尾器による同定の痕。
今年は4箱。少なめ。もう一箱撮っておく。
こっちもナミシャクの地味どころ。アオシャク以外のシャクガは油断をするとどこまでも地味である。圧倒的だがあまり目に嬉しい光景ではない。
記念撮影をしておこう。
ケブカチビナミシャク。これはわたしも見たことがある(08年12月20日記事)。もっと絞りを開けば,展翅針をぼかし飛ばすことができたかもしれない。
標本を取り巻きながら人々があれこれ話している。
微針を使って展翅する苦労の話。刺しどころが悪いと翅が反り返ってしまう話。肉眼では無理で顕微鏡を使う話。何とかいう微少ミクロはもともと翅が湾曲してして,どうやっても平らにならないという話。
大会要項。
今回の表紙はヤホシホソマダラ。南方性の蛾で,この画像@能代は(この時点での)北限記録とのこと。
因習の「一人一話」。(12/2/26,昼〜夕方)
会のスタート。総勢27名。「みちのく会」とはいえ,東北・北海道が11名でやや劣勢である。
「一人一話」とは,自己紹介もかねてここ1年の関心や近況を5分ほどでスピーチするというもの。例年はプロジェクターなんかも動員して,とても5分では済まない状況だったのだが,なんと今回はパワポの準備なしでプレゼンは明日回しとのこと。一部の人々はやや落胆の様子だった。
というわけで,今回のレポは画像なし。わたしの必死の聞き書きが残っていて,かつ解読できたものについてのみ紹介。
誤記述・理解不足があったらごめんなさい。ご指摘があればいくらでも訂正・削除します。
秋田自然史研究の調査を行っている。ライトにトビケラが沢山くるので,そちらが中心になってしまった。鱗粉がなく,♂の交尾器が最初から体外に出ていて扱いやすい。
詳しい「トビケラ図鑑」が発刊されれば,少なくとも蛾屋には売れるはず。灯火をやっていれば,蛾もトビケラも一緒である。
秋田での糖蜜採集。若い頃には採れなかったヨスジノコメキリガが最近は多くなってきている。分布を拡大してしている可能性大。
わたしはこれ未見。北海道はまだ未達だと思う。
ハマキガはやはりホソハマキが基本である。標本募集中。そうなのか。どんどん敷居が高くなる。
昨年の震災について語られる。
今回のことで分かったのは,とにかく標本は濡らしてはダメということ。修復が難しい。どのように扱うかについて共通の基準が必要になると思われる。
宮城。11日は家を離れていた。戻ると家はつぶれていなかったが,瓦が落ち,ガラスが割れていた。標本は別棟の倉庫に入れてあったが,家の中の状況がひどく,1週間ほどは標本に手を付けられなかった。かなりの標本箱がひっくり返り,壊れたものや翅が裂けたものが出たが,予想していたよりは被害は少なかった。
報道されていないが,実際は4月7日の余震の方が強かったように感じられる。前回とは逆の方向に揺れがきて,11日に倒れなかった箱がやられてしまった。
なかなか業者が回ってきてくれず,窓にサッシが入ったのはやっと先週のことである。
タナカヒメシャクの♀を捜索中。
キュウシュウヒメシャク採集。
同じく宮城。
墓石がほとんど倒れた。現在は復旧。
18mmほどの冬虫夏草に,集団で6mmほどの蛾の幼虫が付いていた。他の冬虫夏草が見つからず,やむなくそれを持ち帰って飼育しようとしたが上手くいかなかった。
※翌日,その幼虫の写真について「シャクガみたいだね」「他に餌がなくてとりあえず来たんじゃないだろうか」「付いていたのは間違いがないから報告すればいいのでは」「キノコから誘因物質が出ていて感染が広まったりすると面白いですね(←この最後の無責任な意見はわたしのもの。B級映画の影響が著しい)などの感想が寄せられた。
仕事で(蛾ではなく)ミカンにつくトゲコナジラミの研究をやった。全く見かけが同一なのに茶につくコナジラミがいて,これが別種であることが分かった。
アカジママドガでもケルクス(コナラやカシの類)を食べない群が知られていて,こちらも別種だった。何を食べるかというのは重要であると感じた。
「多食色」で済まされてきた蛾がDNA解析で複数の種に分割される例がちらほら出てきている(例のスギノキエダシャクとか)。でも,それ以前に「幼虫の生態が不明」の蛾がまだまだ多い実情。
「一人一話」の後半戦。(12/2/26,昼〜夕方)
ところで,「みちのく会」参加は4回目で,そろそろ名前と何蛾屋なのかの対応がつくようなってきた(顔との一致は×。これは母方の遺伝である)。今回の「一人一話」メモも発表者がなんとなく分かるのだけど,割愛する。
知識や言葉に固有名詞が冠されるのは神のそれだけじゃないだろうか。もちろん,現在,ある知識や言葉について何らかの個人への権利付加は行われている訳だが,純粋な言葉の観点から見るならば,そのことは特定の文化制度下での非本来的なものに違いないと思っている。知識や言葉はそこら辺を浮遊していればよいと思う。
「知識と権力」とかそういう議論をここで展開するつもりは全然なし。
『標準図鑑』マクロ編に向けての,トリバガの標本募集。
「撮り蛾屋」としてはトリバガは難しすぎ。
トリバガみたいなヘンテコな蛾の,いることすら知らない人が圧倒的だろうな。小学校で教えればいいのに。
前回のヨツボシホソバとウンナンホソバの後日談。外国の研究者からDNAを調べたいから脚を送れとの話。
- これに関して翌日にコメントあり。自分は高尾山のヨツボシとウンナンは区別がつくようになった。ヨツボシ♂は前翅外縁の黒みが強い。九州・四国ではウンナンはまだ出ていない。
クワトゲエダシャクの人工交配に成功。サクラとナシは確実に食べる。リンゴはやっていないがおそらく食べるだろう。ケルクス(コナラ・カシ),バラも大丈夫で蛹まで行っている。
ヒメミスジエダシャクの東北日本海沿い分布を確認。
岐阜でウスアオモンコヤガを調べると,翅の青みが強くコントラストの明確なものと,全体に色が濃く白色部の目立たないものとの2型が認められ,交尾器にも違いが見られる。別種の可能性あり。県内の分布状況から見て,東北には黒型がいないかもしれない。他県からの情報求む。
- これに関して翌日に補足コメントあり。ウスアオモンコヤガのタイプはロシア産。これは青型。黒型については台湾,中国,スマトラから標本が出ている。従来一属一種とされていたが,色々な種がいるのかもしれない。
北海道のわたしは「青型」しか見たことがない。北海道は「沿海州」の一部だから。
最新のヨーロッパのヤガ図鑑ではヒトリガ・ドクガを含めてしまっている。
また,クアドリフィーネ(後翅翅脈が4つに分岐している)のヤガをまとめて,「トモエガ科」を新設しようとする動きも依然活発である。
今年は環境省のレッドデータ改訂の年である。過去,蛾は異常に少なかったのだが,今回は108種の蛾を選定した。
毎週,高尾山へ採集に行っていた。昔とは採れるものが変化している。蛾は少なくなった。パラパラ,という感じ。今は光源が昔よりも進歩していることを考え合わせれば,蛾は相当減っているのだろう。
苫小牧では数というよりは,多様性が減ってきているように思える。
北海道。カシワに被害を与えるマクロ3種。クヌギキハモグリガとカシワミスジキンモンホソガの2種は字書き虫。年2化で,2代にわたって同じ葉に潜ったりするので,9月にはほとんどの葉が白くなってしまう。また,ツヤコガの一種は春の若芽に卵を刺し込んでいるらしい。幼虫は葉脈を通っていき,葉を枯らしてしまう。
前2種について,樹にどれくらいのダメージを与えるのかと(わたしが)質問。樹全体を枯らすところまではいかないが,そこそこ弱る模様。落葉樹だからなんとかなるのだろうな。
プロジェクターでのプレゼンがなかったので,やや不完全燃焼気味。その反動で,夜や明日がより熱いものになるかもしれない。そういう人々である。
ところで蛾屋の裾野をやっているわたし(裾野がなければ山頂だってないんだぞ。裾野のみなさん,頑張りましょう。わたしレベルではほとんど平地なんだけど)が何を一話したかというと,「身近な自然を知らなければ倫理的思考はできない」と強弁して倫理の授業で虫や蛾のスライドを見せた話。何人かの女の子が泣きそうになって困った。
【(3)へ続く】