第34回みちのく会札幌大会私的報告(4)
2日目のはじまり。(08年3月2日,7:00〜)
朝7時にチェックアウト。正味10時間の利用で8000円弱+有料放送1000円。どう考えても千円分は見ていない。
吉野家で朝食。わざわざ豚丼を食べる。
ホテルユニオン着。さて2日目。プログラムは「講話 蛾界最近の話題」である。どうやらそういう界があるらしい。一般人はそんな界の存在をついに知ることなく人生を終えるに違いない。
もとより勉強好きのわたしが一番楽しみにしていたのが,この発表会である。経済的な心配がなければわたしは大学に入り直して1日12時間勉強するだろう。
研究発表その1。「ホソガ」。
発表者はホソガ一筋(ヒトスジホソガという種がいるとかいないとかの話ではない)で数十年研究を続けてきた方。
- ホソガとは,いわゆるハモグリガの仲間。昔はハモグリガはすべてホソガだと思われていた。世界では1600種ほど記録されている。日本では120〜130種だが,琉球で本格的に調査すればもっと増える。
- オーストラリア調査。乾燥地帯で針葉の植物ばかりなので,「葉潜り」は無理。そこで「虫こぶ」を探すことに。ホソガ幼虫は腹脚が3対なので判別できる。結構見つかる。この地では幹に潜っている。日本ではタマホソガが茎に潜ってこぶを作る種である。
- ホソガは開張1cm未満だが,なかなか美しい。
- 研究を始めた頃は,飼育方法も標本の作り方も分からない状況だった。ホソガ用の展翅板を開発したのは自分である。書籍サイズなのは,海外へ行く時に税関で余計な時間を取られないようにする工夫。本に見せかければよい。
- 若齢のホソガの幼虫は葉の表皮に侵入し,細胞壁を壊して汁を吸う(sap-feeding-form)。その後に組織をかじる形態(spinning-form,繭を作る)に経て蛹になる。
- 進化が進んでいると見なされるものほど「汁吸い」の期間が長い。
- 「汁吸い」と「繭作り」の間に,何も食べない「静止型(quiescent-form)」を持つ種がある。「汁吸い」に適応した特殊な形態の口器であるため,一回の脱皮では「かじり型(繭作り)」になりきれないのでは? 「静止型」は蛹のような期間。
- 幼虫を初齢から通して研究することは重要である。
- ヨトウガでは1齢幼虫において腹脚の一部が退化しているものとしていないものとがある。
- ホソガにおいてもsubfamilyの分類上,幼虫で「気門が中胸節にある(普通は前胸節)もの」・「腹脚数が5対」などの差異は重要なはずである。
- 幼虫を調べることで新しい知見がまだまだ得られるはず。
- 日本の研究者の論文は欧米ではなかなか取り上げられない。
研究発表その2。「生物多様性情報と蛾の研究」。
- <トピックス>
- 「ウスオビチビアツバ」はヤガ科からはずされて,ヤガ上科の中にMicronoctuidae科としておかれることになりそう。(Micronoctuidaeって直訳すれば「コヤガ」だなあ)。
- カイコガ科内部は寄せ集めであって,Prismostictinae亜科(スカシサンやオオクワゴモドキ)が科に格上げになるかもしれない。(前日の発表で,ドクガ科とヒトリガ科を,ヤガ科の亜科に入れるとする論文が立て続けに2本出たとの話も)。
- 「ある種についてどうやってその情報を得るか?」
- データベースの作成が国際的にすすめられている。(ここら辺はメモが追えず)。
- DNAによる種の同定について。
- 現在,バーコーディングが進みつつある。
- その利点。
- 2年後には,1種につき30分・150円で調べられることをめざす。現在のように専門家に標本を送る手間や同定に費やす時間が不要になる。
- 新種が明らかになる可能性。「ALL-Leps:: barcode of Life」では,新種候補のスズメガが400ほど出てきている。
- 日本における成果。
- 「フトフタオビエダシャク」には「広葉樹食い」と「針葉樹食い」がいるが,DNAから見ると,「針葉樹食い」は他の亜種に比べて根元の方で分化している。別種にすべき?
- DNAによる同定の限界。
- 種内の変異・交雑個体に関して,形態の比較が不可欠である。かくして分類学者が絶滅させられることはないだろう。
研究発表その3。
- 分類学上のトピックス
- オオミズアオの学名変更。これについては,がいすとさんの記事「オオミズアオの学名変更:ミステリアスなアルテミス」を参照されたい。(小種名がartemis(アルテミス)からaliena(外国の)になると,これまでよく言われてきた「月の女神の名前を持った蛾」が当てはまらなくなる。残念に思う人も多いだろう)
- (がいすとさんからのメールによって記事訂正)マイマイガは幾つも亜種に分かれるが,従来の北海道亜種は独立種Lymantria umbrosaと同じことが分かり,エゾマイマイとする。しかし道南〜九州にいるのは L. disparのjaponica亜種であるようだ。
- 中国での採集について。
- 純白の女物夜着(ネグリジェ)にブラックライトを装着しての灯火採集が実施された。
やっと終わった「みちのく会」。さて来年は。(08年3月2日,10:30〜)
というわけで,「第34回みちのく会札幌大会」は完了。
関係各位には,場違いな素人であるわたしの参加を許していただいたことを大変感謝いたします。
来年は新潟の予定である。2月だと会議ラッシュだから厳しいかなあ。ましてや,本レポが人々の不興を買って,来年は「案内」がこないかもしれない(傍系でしかないyyzz2の影響力などゴミ同然であって何を書こうと蚊の羽音以下であるので,関係者は気になさらずとも大丈夫であるのだが)。
駅前の量販カメラ屋で「α700」購入。朝の丼と蛾の話がもたれて食欲なし。普通はそうに決まっている。昼飯パスで,正午ジャストの都市間バスに間に合う。
車中,本を読む気力がないので,ぼーっとした頭でここには書けないいかがわしいことを考えている内にいつの間にか寝てしまった。
私見によれば,沈黙を保っている人間のほぼ83%はおよそ口に出せないようなことを考えており,残り18%は単純に頭が空っぽだったりする。合計が100を越えるのは統計上の誤差である。
長時間に渡る会議中に始めから終わりまでかたくなに何一つ発言しない人物がしばしばいるが,そういう時の彼の脳内にはもはや超自我などカケラも存在しない。凶悪な夢想や犯罪は会議室から芽吹く。
このまま目が覚めなくても一向にかまわなかったのだが,目覚めてしまった。苫小牧だった。
【この項終わり】
本記事は拙ブログ「yyzz2;虫撮記【虫画像・他】」08年3月3日〜6日の記事に若干の加筆修正したものです。
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