06年9月3日。北海道苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長18mm。
秋に沢山出てくる蛾。
わたしには「リンガ」という名称の由来も,どうしてこれを「実蛾」と書くのかも分からない。だからこの亜科の蛾を見ると何となく嫌な気持ちがしたりするのだが,もちろん古人とわたしとが悪いのであって,蛾自体には落ち度はない。
※当てずっぽうの考察は,拙ブログの07年9月1日記事参照。
というわけで,カマフリンガは「鎌斑実蛾」と書く。鎌というのは横線よりも翅頂の鉤型を表現したものだろう。
赤茶色の地色に鋭く曲がった横線が個性的で,同定に迷う蛾ではない。でもやっぱり地味なのは仕方ない。とまっている場所も良くない。緑の葉の上ならもっと映えるかもしれない。彼らにしてみれば目立たない方がいいに決まっているだろうが。
同日,同個体。
カマフリンガの学名「Macrochthonia fervens」。
属名は「macro+chthonia(ラテン語的にはクトニアと読む)」であって,マクロは「大きい」に決まっているとして,クトニアがやっかいである。辞典では「chthonios(ギリシア語だとこうなる):冥界の,大地の」とか書いてある。また,ヘルメス神の形容にも使われるとのこと。
もう少し調べられそう。ネットで検索をかけてみると,chthoniosが人名として引っかかる。なんでも,例のカドモスが竜をぶっ殺したときにその歯を地面に蒔いたところ,戦士たちが現れたそうだ。困った奴らである。竜の歯を抜くなんて一苦労だったに違いない。きっと家来にやらせて自分ではしなかっただろう。それで,その湧いてきた戦士の一人がクトニオスである。(「ウィキペディア」の「スパルトイ」の項目を参照されたい)
蛾の命名としてはどういう意図なのかは例によってぴったりとは分からないが,いろいろと想像をめぐらすのは楽しい。文系ならでは虫の楽しみ方。
種小名は簡単。「燃え上がっている,熱い」。英語のフィーバーと同じである。これは翅の色や模様からだろうと容易に類推可能。
さて図鑑読み。保育社『蛾類図鑑(下)』から。
♂の触角はクロオビリンガと同じ形態を示す。(引用者註:「♂の触角は基部から約2/3までは両櫛歯状で,その櫛歯は大へん長い。のこり1/3は繊毛状。」)♀のは繊毛状。下唇鬚第3節は短く,尖っている。前翅長は少しとび出し,外縁はその後方で少し凹んでいる。腹背基部には黒い毛塊がみられる。(…)♂の前翅はやや黒みをおびるが,♀では赤褐色の色調がつよい。(p.135)
なるほどねえ,それでは上の画像は♀に違いないから,♂に登場願おう。
撮ってあったのである。
06年9月1日,北海道苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長14mm。
なるほどこちらは色が悪い感じ。
触角アップ。
06年9月1日,同一個体。
なるほど櫛ヒゲが途中で力尽きている。先っぽの方はヒゲの所と別の役割があったりすると面白いのだが。
講談社『蛾類大図鑑』。
属Macrochthoniaは本種1種で代表され,東アジアの特産(…)(p.799)
おお,なんか稀少っぽい。
日本では北海道から九州まで本土域に普通。(p.799)
やっぱり普通種だったか。いや,別に普通種でかまわないんだけどね。
○『原色日本蛾類図鑑(下)』;保育社
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社
(08年02月08日改稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま