ヒメシロモンドクガ Orgyia thyellina (Butler)

ドクガ科 Lymantriidae

ヒメシロモンドクガ

06年8月6日,苫小牧市樽前。錦大沼公園アルテン。前翅長20mm。

■アタリの蛾,ハズレの蛾

何かのはずみで「蛾を撮っている」ことを口にすると,「そういえば蛾にもきれいなのがいるよね」と言葉が返ってくることがある。困る。明解な相づちを打てない自分がいる。

息を飲むほど美しい蛾は沢山いる。とはいえ,やっぱり地味な蛾の方が多い。地味などころか,みすぼらしいボロっちい蛾だってしょっちゅう目にする。

当たりはずれでいえば,蝶に比べて蛾はハズレが多い。(風俗店に例えたい衝動に駆られたが書かない)。


このヒメシロモンドクガもハズレ。第一印象が「ビンボくさい模様」だった。

黒い紋も茶色の帯の外縁線も,何だか薄汚れて見える。まるで着たきり作業服で事務をとっているわたしのようである。背面に飛び出した黒い毛の束は悪性のでき物。

■ヒメシロモンドクガの学名

ヒメシロモンドクガ

同年同日。


前脚の投げ出し具合や毛だらけの感じや,尻が見えていないことからシャチホコではなくてドクガだとはだいたい見当がつく。しかし冴えないなあ。


属名の「orgyia」は長さの単位の「尋」。両手を横に広げた幅だからだいたい1.8m。絶対に計り間違えていると思うが,平嶋義宏『生物学名辞典』では「蛾が静止するとき前脚を前方に伸ばすため」(p.305)と解釈している。イラガの方が適切では? とツッコミたくなる。

種小名は「thyella暴風雨+inaに属する,の子供の」。成虫からのイメージか,それとも後記する幼虫からなのか。


わたしが撮ったのはここまで。ところが調べるといろいろなことが出てくる蛾である。伊達に非美麗種をやっている訳ではない。

このヒメシロモンドクガのこれ以外の画像については「みんな蛾」の「ヒメシロモンドクガ」の項をぜひご覧いただきたい。(今後自分で撮れればここに貼って記事を書き直します)

■その1,無翅の♀

上の画像は夏型の♀。秋型の♀は翅が伸びないという(上記「みんな蛾」の画像参照)。

「みんな蛾」では翅が羽化し損なったように縮んでいるが,図鑑には展翅した形の図版があるので,翅の模様が分かる。同じ模様である。単純に翅部門を縮小したらしい。

完全なリストラに踏み切れなかったのは,おそらく消失させるのにもそれなりの工夫やエネルギーがいるということなのだろう(例えばクモガタガガンボの♀は翅の筋肉の跡地に卵を詰め込んでいるという)。組合がうるさいのかもしれない。


講談社『蛾類大図鑑』ではその表現は使われていないが,他の図鑑では「翅が退化」と書かれている。せっかくだから勉強。「Wikipedia」の「退化」の項目

進化 という言葉が進歩を意味しないのは、生物学上は当然なのであるが、一般には誤解されやすい部分である。それと対応して、生物学における退化という言葉が、生物学における進化という言葉と反対の意味の言葉であるという誤解も広く見られる。(…) 退化は生物の個々の器官に対して使われる言葉である。したがって、その生物全体について使われる進化と対応するものではなく、退化に対する言葉は発達である。(…) ある動物群の中で進化の進んだグループというのは、いろんな部分が発達した生物ではなく、むしろあちこちが退化した生物である場合が多い。

_____〆(・ェ・` )メモメモ。なるほど。進化すればいいというものではないのだが,連中は連中なりに結構頑張っているのである。

こんな翅のない蛾を野外で見つける自信は全くない。まさか,そのため(写真避け)の進化? いや違うだろうな。それは目的論的発想だ。

■その2,まだ見ぬ♂

♂はスタイルが違う。北隆館『昆虫大図鑑T』が引用しやすい。

♂,黒褐色で,青みを帯び,後角付近に白紋がある。(…)♂は昼飛性。

(p.167)

ああ,和名「シロモン」の理由だな。♀は白紋がよく分からない。

♂は運がよければ今後出会えそうである。

■その3,幼虫のこと

ネットで検索すると,圧倒的に話題は幼虫である。画像を見る。なるほどよく見かける奴だ。普通に見かけるので撮っていない。今後は撮る予定。講談社『蛾類大図鑑』から。

コツノケムシとよばれ,リンゴ,ウメ,サクラ,スモモのほかクワ,クヌギ,ポプラなど多くの樹木につく害虫として知られている。

(p.630)

心配なのは毒。前記「みんな蛾」の記事説明から。

(幼虫は毒針毛無きも、強い接触により軽微な発赤を生じ、1時間以内に治癒。1971年環境衛生18-10より)

「強い接触」? 体表から毒汗がにじむのだろうか……。それはそれで嫌だが違うだろう。毒針が鈍いに違いない。

とはいえ,この手のものは体質に左右されるのも確か。

ヒメシロモンドクガ

07年8月5日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長17mm。


かくして課題山積。この記事を将来改稿できる(要するに1〜3に関わる新しい画像が撮れたということ)日を祈念して,一旦この項を終わる。

○『原色昆虫大図鑑T』(4版);北隆館

○『原色日本蛾類図鑑下;保育社

○『日本産蛾類大図鑑』;講談社


(08/02/05改稿)


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