07年8月3日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長33mm。
大きめのふわっとした,薄い翅の純白の蛾。そこに一箇所だけかぎ裂きの模様があって,それでエルモンドクガの名前になる。
この指標がなければ,白いばかりの同定の面倒な蛾になる。毒針毛はなく,この蛾を嫌う理由はない。エルモンドクガは,単純に美しい蛾と見なせばよい。
日本では「L紋毒蛾」。台湾でも同じく「L紋白毒蛾」。種小名の「l-nigrum」も「Lの黒斑」である。
イギリスではちょっと違って「Black V Moth」となる。「L」ではなくて「V」と見なしたものだ(サイト「UKMoth」による)。ところが,この「V」が単純に「V」かどうかは厄介なところで,あるいはひっくり返って「Λ」なのかもしれない。
すなわち,種小名の「l-nigrum」(「lの黒斑」)の「l」は,「L」ではなくて,ギリシア文字の「Λ」(ラムダ)とするのが学名的には普通だからである。
とすると,「Black V」の名称をふまえて,それをでんぐり返して「Λ」で命名したのか,あるいは学名「Λ」が先にあって英名「V」ができたのかということになる。蛾に対して,欧米人がわざわざ後から意図的に世俗名をつけるというのは考えにくい。世俗名は自然発生するものだろう。すると,「V」→「Λ」の順番。学名の命名者はなかなか洒落たアイディアの持ち主と言えそうである。
でもやっぱりわたしには「L」字に見える。
08年8月12日。苫小牧市樽前錦大沼公園。アイドリング中の個体。この後すぐに飛び立ったので測定できず。
翅脈が水色に血管のように走って,そこをL紋がわずかに透けて見える。
オレンジ色の触角は,ウサ耳としてはドクガ科のうちでは小振りな方。ドクガ科の蛾は子ウサギのようなかわいい顔をしているものが多い。鼻っ柱(下唇鬚)は黒,脚は白黒の縞タイツになっている。それら以外は真っ白である。
わたしのように生態写真オンリーの者にしてみれば,しばしば個体変異の大きい翅の模様ばかりではなく,こういう脚の色合いや,胸背や腹背の様子などが同定ポイントとしてもっと注目されてもいいように思う。
背中側の毛束はしばしば擦れてしまっているのだが,それは翅表だって同じことである。翅よりは比較的に変異が少ないのではと思うのだが,どうなのだろう。
06年8月6日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長28mm。
エルモンドクガの♂♀について,保育社『蛾類図鑑(下)』に記述がある。
♀は♂より大きく,やや翅が薄い感じで,触角の櫛歯が短い。(p.26)
この記事中の3頭については何とも判断しかねるところ。ただ5mmの違いは大きいので,1枚目が♀,3枚目が♂という可能性が高いとは思っている。
11年7月25日。苫小牧市樽前,錦大沼公園。前翅長32mm。
属名のArctornisは「arktos 熊または北(=大熊座の方向)+ornis 鳥」から。どちらにしてもピンとはこない。
○原色日本蛾類図鑑 下;保育社
(08/01/06初稿,01/16,02/04,12/29改稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま