06年6月22日。苫小牧市樽前,錦大沼公園。前翅長30mmほど。
画像では紫がかった青光りした翅に写っているが,夜目には真っ黒に見える。金色の冠毛も薄暗い中では分からない。端的に言えば,アオバシャチホコは大きくて黒い蛾である。そして,全面真っ黒に見える蛾はそんなには多くない。
フラッシュを当てられ,ディスプレイに写し出されて初めて,アオバシャチホコはその美しさを見せる。蝶のような鮮やかさはないが,幾度見ても一瞬はっとさせられる蛾だ。
こちらは看板の支柱にとまっているところ。なるほどシャチホコガである。
シャチホコは上から見てもつまらない。やっぱり横から。
07年6月4日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長29mm。
保育社『蛾類図鑑(下)』から。
口吻は退化して痕跡のみ。後脚の脛節の距は1対。(p.41)
この蛾も出撃しっ放しの特攻隊みたいな仕組みらしい。渇きや空腹の感覚も失われているのだろうか。もし,これらの欲動が残ったままなら文字通りの餓鬼道の領域である。
脚のトゲについては,毛むくじゃらで全然分からない。同定に困る蛾ではないのだから,これは趣味的な記述である。こういうのは嫌いではない。
07年5月30日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長24mm。
触角から判断して♂。サイズも小振りである。
アオバシャチホコの和名の「アオバ」は「青羽」(×青葉)。どちらかというと紫色に見える。
蛾の名称で「アオ」は緑色をさすことが多いが,アオバシャチホコでは,黒い馬を「青」と表現するケースにあてはまると思う。
学名はZaranga permagna 。種小名は「非常に大きい」。非常かどうかは主観の問題だが大きいことに異存はなかろう。
属名の「Zaranga」がやっかい。そもそもフレデリック=ムーアによる命名は奔放でインドかぶれであって,解釈に決め手のないのが通例である。
仕方ないので,Wikipediaを渉猟して「Zaranj あるいは Zarang」を見つける(https://en.wikipedia.org/wiki/Zaranj)。アフガニスタンの南西部,イラン国境近くの都市である。「水域」の意。古代ペルシアからの,地域の中心都市である。ギリシアでは Dranginia と呼ばれたという。おそらくこの地名 Zarang にちなんでの命名と思われる。
Zaranga 種の原記載文(Moore, 1884, Trans. ent. Soc. Lond. 1884: p.357)には,採集地が Umballa となっている。アンバーラー(区)はインド北西,パンジャーブ方面。ザランジよりも相当に東で,ムーアにとってのこの蛾の分布の知見に対応していたかは,相当怪しい。(ちなみに,ザランジは英領インド外である)。 とはいえ,ムーアが地理をそこまで厳密に考えていたかは保証の限りではなく,英領インド帝国界隈の地名を適当に持ってきた可能性が極めて高いとわたしはにらんでいる。
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社
○『原色日本蛾類図鑑(下)』;保育社
(2018年01月31日修正)
yyzz2;虫画像 虫よもやま