アマヒトリ Phragmatobia amurensis Seitz

ヒトリガ科 Arctiidae

アマヒトリ

06年8月9日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン温泉施設看板。

■アマヒトリのテント

北海道の夏は短い。紋切り型だが本当だから仕方ない。しかも,太平洋岸の苫小牧では内陸部に比べて気温が上がらない。夏らしく感じられるのは7月中ば〜8月一杯で終わり。

その苫小牧の夏はドクガの季節でもある。コンビニのウィンドウを見て回ると,たいてい5,6頭は小さな黄色いテントを張ってとまっている。

ドクガと知ったら,一般客や店の人間は恐怖するだろう。過剰反応を引き起こしてすべての虫を殲滅しようと考えられると( ゚Д゚)マズーなので,わたしは黙っている。


黄色いテントの中に,時たま赤茶色のテントが混ざっている。形も大きさもそっくり。こちらは安全。アマヒトリのテントだ。

アマヒトリ

同年同日。

■何でも食べる

アマヒトリは「亜麻灯取」である。「ヒトリ」の部分は「燈取」とか「火盗」とか色々あるようだが,要するに灯りや焚き火にやってくるということ。

「亜麻」の方は,「亜麻色」ではなくて,亜麻を食害するという話。亜麻なんて近所にはちっとも生えていないが,ヒトリガ系の毛虫は草地を徘徊する偏食知らずの虫である。「みんな蛾」で調べてみると,アマ科から始まってマメ科・クワ科・タデ科が食草に上げられている。タンポポ(キク科)も食べるはず。これなら食いっぱぐれはまずないだろう。


昔はアマの害虫として重要で,そこからの命名と思われる。

北海道でアマを力を入れて栽培していたのは戦前。戦後は化学繊維に押されて消えてしまった。最近は健康食品として復活させようという動きがある(参考:「亜麻公社HP」)。


今ではアマヒトリはマメ科牧草の害虫である。

さらに「北海道病害虫防除所HP」では,平成11年,アマヒトリがメロンの「新病害虫」に認定されたメロンってウリ科のキュウリ属だぞ。なんでもありあり。

■学名とフリギノサ亜種

アマヒトリ

06年7月27日。苫小牧市錦岡。


学名はPhragmatobia amurensis

属名は「phragma生け垣(-tesが付くと「イネ科」になる)で生きるもの」。

種小名はensisが場所を示すから「アムール地方の」(同じ種名に「ヒメシロチョウ」がいる)。アムールかあ。遠い。分布はアムール界隈である。講談社『蛾類大図鑑』から。

原名亜種(Figs 1,2)は北海道,サハリン,シベリア南東部に分布する。亜種japonica Rothschild(Figs 3,4)は,原名亜種よりやや大きく,赤みが弱く,後翅の黒斑がいっそう強い傾向がある。本州に分布するが,朝鮮半島の南部のものは同じ亜種にぞくするものと思う。東北地方北部から中部山地に産する。(…) ヨーロッパから北アメリカのPh.fuliginosa(Linneus)の代替種(Daniel,1970による)。

(p.650)

ここの画像はおそらくは北海道亜種だと思う(分布以外の根拠はない)。

「代替種」というのは耳慣れないが,類縁種で別地方で同じ生態的な位置にいるということらしい。日本でも古い図鑑を見るとアマヒトリはフリギノサ(「煤」の意。なかなか気分が出ている)にされている。どうアムレンシスと違うかのはよく分からない。後翅の斑が違うのだろうか。


フリギノサは検索をかけるとどんどんヒットする。あちらでは非常にポピュラーな蛾らしい(例えば「UK Moths」の「2064」参照)。英名は「Ruby Tiger」。愛されているネーミングである。

日本では分布が北よりでマイナーなようだから,「アマヒトリ」でも仕方ないところ?

■亜種について,更に

ありがたいことに「Mothprog.com」のがいすとさん(プロの蛾屋である)からメールをいただいた。なんと日本鱗翅学会の会誌「やどりが」からのアマヒトリ類の画像付き! 感謝感激。
 画像では,amurensisjaponicafuliginosaの決定的な差異は分からない。なかなかやっかいそうである。


がいすとさんのメールによると,Ph.fuliginosaには和名が付いていて,「ガンソアマヒトリ」というのだそうだ.「癌疽」のはずがないから「元祖アマヒトリ」だろう。すごいなあ。見たものである。

せっかくだからアムレンシスは「ホンケアマヒトリ」にすればいいのにとも思う。

それにしても名産品や天才バカボンでは「元祖」というのはあるが,動植物で「ガンソ」というのは珍しい。「元祖」が付くとプレミアな感じがする。人心を惑わすに違いないのだが,日本にはいないので大丈夫である。


更に,アマヒトリには他にも亜種が色々いて(結局どれも同じに見える),例えばPh. placida(「穏やかな」の意)は「オオアマヒトリ」とのこと。

どうもありがとうございました。wikiみたいに情報が集まれば楽しい。地味な虫たちにもっと光を。(ミクロのもっともっとマイナー所はわたしの力では無理だけど)

■店内から

アマヒトリ

05年8月10日。苫小牧市錦岡。窓ガラスにとまったところを裏から。


他のヒトリガ類に見られるようなキツイ赤ではなく,腹部も翅と同じ赤茶である。

コンビニ店員さえ刺激しなければ,もっとこんな写真を撮れるのだが。

○日本産蛾類大図鑑;講談社


(08年02年08日改稿)

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