アカヒゲドクガ Calliteara lunulata (Butler)

ドクガ科(Lymantriidae)

アカヒゲドクガ

07年5月24日。浦河町野深。前翅長31mm。

■灰色の大きい蛾

灰白色の,のそっと大きい,とりつく島もない蛾。アカヒゲドクガは目を引かない。苫小牧では春から夏への5月〜6月。ああ,またいるな,という感じである。壁に貼り付いていることもあれば,灯火下に落ちていることもある。

色も,サイズも,スタイルも,蛾のイメージの一つの典型といえようか。


そもそも蛾に関心のある人しか「ドクガ」とは分からないのはさておき,アカヒゲドクガに毒はない。北海道で危険なのはドクガ(ナミドクガ)だけ。キドクガ,モンシロドクガも有毒らしいが,概して大人しい。こちらに突進してきたりしない。

本州で最も問題となるチャドクガは分布していない。

■アカヒゲドクガの同定ポイント

前脚を前に長く突き出して五体投地のスタイルをとるのはドクガ科ばかりではないが,ドクガの類は毛深いので目立つ。顔つきもよく分からないことが多い。顔が分からないので得体の知れない印象を受ける。

アカヒゲドクガ

06年6月4日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。


同定に迷うことはない。肩口の,お供え餅のような黒い紋が目印。保育社『蛾類図鑑(下)』での解説。

前翅の前縁部には2重線の黒紋があって,これが内横線の出発点になっているが,多くの個体では内横線は消えている。

(p.22)

この「お供え餅」があればアカヒゲドクガ。

学名も同じ着眼で,種小名のlunulataは「半月の」である。

アカヒゲドクガ

06年6月18日。苫小牧市樽前,錦大沼公園。

見事な三段重ね。内横線,外横線がしっかりしている。おそらく新鮮な個体。


ちなみに属名のCallitearaについては,当管理人のブログの08年1月13日記事を参照していただきたい。

■和名は……

和名の「アカヒゲ」は,確かにそうなのだろうけど大抵は見えないので使えない。

アカヒゲドクガ

同個体。これは♀。♂は櫛歯がもっと長い。また,ドクガ科は口が退化している。

この触角が「アカヒゲドクガ」の由来。あまりしっくりとはこないネーミングである。

■見せ場は毛虫

幼虫。アカヒゲドクガは毛虫タイプである。

アカヒゲドクガ

06年8月19日。苫小牧市高丘,緑ヶ丘公園。


右側が頭。それにしても立派な毛虫である。恐怖に慄然とする人もいれば,日々の悩みを忘れて夢見心地になる人もいるだろう。

「好きな毛虫人気投票」がもしあれば,きっと上位に入ってくるに違いない。ここのような泡沫HPでやっても仕方ないので,どこかメジャーどころで企画してくれないものだろうか。わたしの予想では1位はヒトリガのクマケムシだと思う。

「みんな蛾」によれば

幼虫は毒針毛無きも、強い接触により軽微な発赤を生じ、1時間以内に治癒。 とのこと。

普通はこんな毛虫と好んで「強い接触」を試みる人はいないだろうが,世の中は広いので油断はできない。

鳥はどうなのだろう。案外平気かも。情報がないので分からない。

■台湾サイトから

ところで台湾の虫サイト「ガガ昆蟲網(ガガは実際は漢字)で見ると,台湾では「結茸毒蛾」と呼ばれている。どうやらCalliteara属のドクガを「茸毒蛾」と総称するようである。キノコが食草ではないから,蛾のスタイルからの命名だろうか。あるいは「茸」の字で示しているものが違うのかもしれない。

せっかくだからもう少し調べてみよう。サイト「蛾的分類」の「毒蛾科(Lymantriidae)」では「茸毒蛾」のうち日本に分布しているのは,「結茸」以外では「刻茸毒蛾(シタキドクガ)」である。「みんな蛾」で「シタキドクガ」はこんなである。うーーん,分からない。

○『原色日本蛾類図鑑(下)』;保育社

○『日本産蛾類大図鑑』;講談社


(2007年12月2日)(08年2月4日一部改稿)

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