07年9月1日,苫小牧市字樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長18mm。
北海道の短い夏は8月で終わる。9月に入ると名ばかりの残暑。朝晩は秋風が吹く。ドクガとノメイガの類が姿を消し,蛾は秋の蛾に切り替わっていく。
ヨスジアカヨトウは秋の蛾の先兵。9月前半に姿を現す。
明るい赤褐色の,ギザギザのキリバ型外縁の翅を持った瀟洒なスタイルの蛾である。充分に美しい好ましい蛾だと思うのだが,あまり話題には上ってこない。どうやら秋限定であることと,そして,それほど多くはない蛾であるかららしい。
同日,同個体。美しい個体。
07年9月11日。苫小牧市字樽前,錦大沼公園アルテン。16mm。
ヨスジアカヨトウの学名はPygopteryx suava。
属名は「pygη 尻」+「pteryx 翅,翼」。「尻」というとすぐに「Venus Kallipygos」(Wiki参照。当HPをまじめに読み込むと余計な知識が増える)などを連想する向きもあるかもしれないが,そこまで深読みする必要はないのであって,単に,翅の外縁部が鮮やかな赤みを帯びていることからだろう。
種小名は「心地よい,甘美な,喜びを与える」。
せっかくもう少し調べてみる。台湾のサイト「東方鱗翅目學會」の「臺灣産夜蛾科蛾種之中名名録」(要するに台湾のヤガのリスト)には,「 Pygopteryx fulva B.S.Chang 1991 茶褐殿夜蛾」という種が記載されている。「殿」=「臀」だと思う。属名から発想した世俗名に違いない。
どうも人々はこの蛾の尻ばかり見ているようなので,前からのアップ。
08年09月05日。苫小牧市字樽前錦大沼公園。
この角度だと白い「四筋」がよく分かる。触角の付け根に白い毛が生えている。鼻先がすりむけているのはこの個体に固有の属性である。
「みんな蛾」に妙な記述があった。
【旧名,別名,害虫名,同定ミスなど】 ヨスジアカシャチホコ(…)
[保育社蛾類図鑑:2084.(ヨスジアカシャチホコ)]
(「ヨスジアカヨトウ」の項)
アカシャチホコ? ん? さっそく,保育社『蛾類図鑑』を取り出すが,時すでに遅し。改訂されていた。小さいポイント活字でこうある。
この蛾ははじめシャチホコガ科のものと誤認されていて,ヨスジアカシャチホコとよばれていたものである。(p.109)
確かに上からだと,胸背の毛の感じやスタイルが例えばセダカシャチホコなどを思わせないこともない。「アカシャチホコ」の画像を「みんな蛾」で見ると,眉毛の白いところなど同じである。そういう罠だったのかもしれない。
07年9月13日。苫小牧市字樽前,覚生川通り。未計測。
理解はできるが,でもなあとも思う。
ことの経緯を調べようとしたがネット上では追跡できなかった。『蛾類図鑑』の初版(昭和33年)を見る機会があればぜひ確認してみたい。
○『原色日本蛾類図鑑(下)』;保育社,1971
(09年02年11日初稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま