シロスジキノコヨトウ Stenoloba jankowskii (Oberthür)

ヤガ科Noctuidae キノコヨトウ亜科Bryophilinae

シロスジキノコヨトウ

06年8月10日,苫小牧市錦岡。道道交差点の看板。ドクガのシーズン真っ只中。

前翅長12mm。小振りだが,かっちりしたデザインでなかなかにシックな蛾だ。ただしこの画像は頭が少しスレている。


検索してみて,生態画像があまりに少ないのに驚いた(蛾の画像自体そもそも少ないと言われればぐうの音も出ないけどさ)。そんなに珍しいわけでもないし,そんなに地味なわけでもないし。

小さいといえば小さいが。

身近なところにふと来訪した小さな虫たちに,ほんすこし目を向けてちょっとだけ心を寄せていくのが日本人の美質ではなかったのではと勝手に思っている。


キノコヨトウ亜科という名称ではあるが,どうやらホストはキノコというよりは地衣類らしい。Bryophilinaeというのが「bryoコケ/phili好む」であって,「コケヨトウ」とでもした方がいろいろと妥当するのだが,ヒトリガ科に「コケガ」というのがいて(これもコケ食いである)譲ったものだろうか。

(ちなみに「コケガ亜科」はlithosiinae。「lithos」は「石」である。 ???  踏み込んではいけない領域なのかw)。

棲み分けはどんな場合にも重要ではあるから,「きのこ」ヨトウというのもユーモラスで悪くはない。


シロスジキノコヨトウの学名「Stenoloba jankowskii」の属名は,「Steno 狭い/loba 袋,葉(よう)」から。


この属は色々といわくがあって,従来は翅脈で判断して「コヤガ亜科」に分類されていたという。


そのころの和名は「シロスジコヤガ」。それが幼虫の研究をもとに「キノコヨトウ亜科」に移転,「シロスジキノコヨトウ」に改名させられた(コヤガ亜科は私見では収集のつかないグループなので個人的にはこっちの方がいい)。

保育社『蛾類図鑑下』にはその混乱の痕跡が残る。

2273から2276までの4種は最近幼虫の形態その他から,キノコヨトウ亜科に属するものと考えられているが,図版の位置が変えられないので,もとのままここに図説してある。したがって和名語尾はキノコヨトウとした。(p.148) (強調引用者)

日本にはステノロバ属の蛾は5種。北海道苫小牧まで分布しているのはこのシロスジキノコヨトウだけらしい。

種小名,これは人名である。ヤンコフスキーに捧げられたもの。


「Stenoloba」で検索すると,蛾ではなく植物がヒットする。ホソバトウキという絶滅危惧の高山植物だ。セリ科だから葉が細い切れ込みになっているのかもしれない。画像を探したが,はっきりとは分からなかった(参考:「狩山俊悟のページ」の「日高山脈の高山植物」)。


始めに見つけたのは馬場の小屋の窓にだった。シャチホコの初物! と思ったがいかんせん場所が高い。しかも1枚目のフラッシュに驚いて逃げてしまった。

シロスジキノコヨトウ

06年8月10日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン,乗馬場小屋。

白線がくっきり目立つ。昼間なら鳥糞擬態になるのだろう。頭の鶏冠も立派である。カメラの液晶を見ていよいよシャチホコガ。

逃げられるのはいつものこと。縁があればまた会えるだろうと思った。


どうやら縁があったものらしい。公園探索から帰る途中,道道の交差点の所の福祉施設の大看板に同じ蛾を見つけた。キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!

この場所は夏はドクガが多い。ドクガを驚かさないよう気を使いながら撮り。

シロスジキノコヨトウ

06年8月10日。苫小牧市錦岡。道道沿い看板。

羽根アリと大きさを比べることができる。

帰宅後,ただちに同定へ。特徴がはっきりした蛾の時はことのほか楽しい作業である。シャチホコの所でさんざん時間を取られてしまったのはいうまでもない。


それから4日後の霧雨の日。今度は手頃な高さだった。冠毛の状態のいい個体なのでアップで。

シロスジキノコヨトウ

06年8月14日。苫小牧市樽前錦大沼公園アルテン。温泉施設看板。

毛の束というより,鳥の羽根状になっているのが面白い。触角があまり長くない。

向うに見えるのはハガタベニコケガ。

○日本産蛾類大図鑑;講談社

○原色日本蛾類図鑑 下;保育社


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