06年6月15日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長20mmほど。
図鑑でヤガ科のページをめくっていくと,茶系統の翅色が多い中,突然,灰色の地肌を持った蛾の一群が現れる。ケンモンヤガ類である。他のグループとは違った雰囲気があって,わたしは好きだったりする。
ケンモンヤガは黒い筋模様(剣紋)が濃い種類だと,何かアフリカの部族の盾の模様みたいになって,だからどうだということではないのだが,少なくとも同定は紛らわしくなる。その点,シロケンモンは分かりやすい。20mmくらいで,白っぽく,剣紋がほとんどない。とりわけ翅の基部のケンモン模様が弱い。
腎状紋が壊れているのは同属のオオケンモンと同じ。環状紋については見える個体もある。
06年6月18日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長22mmほど。
こうやって大写しにすると,あらためていい蛾だと思う。あまり映えないのはバックが舗石ということで割り引いて欲しい。
画像では分かるような分からないような。講談社『蛾類大図鑑』では,
東北アジアの亜種 leporella Staudinger(引用者註:この蛾)は原名亜種に比べ,翅表には強く灰色鱗片を散布する。(p.674)
よく見ればそう見えないこともない。表面がざらざらした感じの蛾はよくいるし。
北寄りの蛾である。北海道と本州の東半分に分布するらしい。苫小牧では6月によく見かけて,あまり珍しくない。
あちらではどうかといえば,「UK Moths」によればイギリスではポピュラーな蛾で,「Miller」と呼ばれているようだ。「粉屋」である。なるほど分かりやすい。
横から画像。
07年6月23日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長20mm。
ちゃんと前方を向いているので,見ようによってはりりしく見える。
学名は Acronicta vulpina leporella 。
属名のacroは「頂点の/一番はずれの/最深部の/最高の」であり,要するに並の状態からかけ離れていることなのだろう。さて「nicta」が問題。羅和辞典では「nictus まばたき」が載っているが「アクロなまばたき」ではよく分からない。紋をイメージしているとも考えられるが,ひよっとして「nycta」なのではないだろうか。これだと「nyx 夜」である.こちらの方が腑に落ちるのだがねえ。
そういうことを考えていたら,最近手に入れた『生物学名辞典』(東大出版)では「acronycta」であって,「日暮れ,薄暮」であるという。
ところが,最近入手したLiddell-Scott『Greek Lexicon』を引くと,「日暮れ」はacronyxiaまたはacronyxである。
acronyctos(これはラテン語化して女性に割り振ると-nyctaになる)は「rising at sunset」とある。これって「日が暮れてから起き出す」ではないだろうか。こちらの解釈の方が面白いのだが。
種小名は「狐の」,亜種名は「小兎の」。どういう動物なんだ。次に来るのはネズミだな。
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社,1982
( 08年02月23日修正追記)
yyzz2;虫画像 虫よもやま