07年7月16日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長8mm。
保育社『蛾類図鑑(下)』ではシラホシコヤガは次のように語られる。
前翅前縁に2個の白色斑があり,やや不明瞭な2本の白い横線が見られるだけで,色彩は全く地味である。(p.144,強調引用者)
なかなかに辛い採点。だが,わたしには高級木材のような色合いに見える。模様だって控えめで上品である。
「腎状紋→環状紋→楔状紋」とおしよせるフルコースのヤガ模様よりはずっと見やすいではないか。
講談社『蛾類大図鑑』ではこう。
頭頂は白色,前・後翅とも光沢のある灰黄色,前翅前縁に接する2個の白色斑が目立つ。(p.802)
まあそんな相場だろうか。翅を一杯一杯にひろげて,やっと2cm足らずの蛾。眼視では葉っぱの茶色い屑のように見えないこともない。
06年8月12日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。
幼虫は未見。シラホシコヤガは幼虫の方の話題の多い蛾なのである。
再び『蛾類大図鑑』から。
属 Enispa の幼虫は樹幹や石面に生ずる緑色の地衣を食餌とする。腹部3,4節に腹脚を欠くセミルーパーで,生時は地衣の細片を体上に盛り上がるように厚くまとい,裸出することはない。(p.802)
※かつてはネット上に「シラホシコヤガ幼虫の身繕い&食事」の動画があったのだが,その動画共有サイトの撤退とともに消失してしまった。価値のある情報はやはり個人サイトから流通させねばならないのだろう。
食草である地衣に興味のある向きは「WEB版 地衣類図鑑」参照。苔の世界もも同定が大変そうである。ゲジゲジゴケなんて名称は初めて耳にした。
シラホシコヤガの幼虫も取り上げられている。シダ状の異貌である。単純な擬態ではない。これだけ派手だと,かえって(人間にとっては)見つけやすそうに思える。
苔だって種類によって,風味や栄養分が異なるに違いない。特別に好みの種類の苔があったりすると面白いのだが,そういう研究はおそらくなされていないだろう。苔だし,コヤガだし。
シラホシコヤガの学名はEnispa bimaculata 。
属名は難しい。散々悩んで,ワモンチョウ科にEnispe属がいる。その語尾を”a”に変えたものではないだろうか。命名はEnispeが1848年,Enispaが1866年だから,その逆ではない。
もともと「Enispe」自体が,平嶋義宏『新版 蝶の学名』(九州大学出版会)によれば,
(ギ)enispô 告げる,語る.語尾をeとして<告げる女>の意味を持たせた造語.
(p.455)
という事情なので,”e”でも”a”でも目くじらを立てる必要はなさそうだ。
ちなみに,ワモンチョウの方は「Digital Moths of Japan」に何故か「中国の蝶」というコンテンツがあって,そこにEnispe lunatumの画像がある。
種小名は打って変わって簡単。「二つの+斑点の」。シラホシではなく「フタホシ」。
でも「フタホシコヤガ」は既にいるんだよなあ。
○『原色日本蛾類大図鑑(下)』;保育社,1971
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社,1982
(08/02/16,08/09/07,09/08/10改稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま