07年8月12日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長17mm。ライトの関係で幾分赤みが強く写っている。
ナマリケンモンという和名は学名のplumbea(=鉛)の直訳である。分かりやすい,と単純に喜んではいられない。これはもともとの和名がなかったということである。
こういう蛾は当然のように,あまり話題にならない顧みられない蛾のことが多い。
ところが,蛾の和名はその蛾の特徴を羅列して表す方針で命名されている(例えば「ヘリジロヨツメアオシャク」とか)のが普通だったりする。
かくして,ナマリケンモンのような名称がかえって個性的に響くという皮肉。
それに比べて古くから親しまれている蝶は事情が違っていて,「スミナガシ」なる虫かどうかさえ不分明な和名があったり,「ウスバシロチョウ」はアゲハチョウ科であるにもかかわらず「ウスバシロアゲハ」に変更される気配がない。
蛾ならば,たちまち改称されているに違いない。
「和名」にこだわりを持つような愛好家の歴史の浅さを,蛾については感じるのが常である。
個人的にいえば,蝶屋の多さが異様である。一般の勤め人にとっては,夜に出会える蛾の方がより身近であるだろうし,美しさもしばしば負けていないし,多様性では蝶を凌駕している。
もっと蛾好きが増えて不思議ではないのだが,学校教育のせいかもしれない。夜の活動は学校になじまないからである。
同年同日。同個体。
腹の中ほどに毛の束が突き出しているのが分かる。この毛束がストッパーになって,ナマリケンモンは,ホソバやフユシャクのように左右の翅を重ねては畳めなくなっているのだと思う。
だからどうということではないのであって,昆虫の形態のすべてに適応上の意味を求めるのは困難である。とりあえずこういう特徴は同定の時に便利なのだが,そもそも紛らわしい蛾でない。
講談社『蛾類大図鑑』には目立った記述がないので,保育社『蛾類図鑑(下)』から。
♂の触角は両櫛歯状,♀のは鋸歯状。腹背の毛塊もよく発達し,(…)。前翅は鉛色で,輝きがある。ここに示したのは♀で♂では前室中室の腎状紋と環状紋との間が黒く,各横線も黒くはっきりしていて♀とはやや異なった感を受ける。(p.58)
ということで,上の画像は♂。鉛色とはこういう色である。次の画像の方が分かりやすい。
07年8月20日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長21mm。
これだと鉛色がよく分かる。♀である。触角が「鋸歯」にはあまり見えないのだが…。講談社『蛾類大図鑑』では「♀では糸状」(p.670)と訂正されている。どうしてこういう差異が発生するのかは分からない。
07年8月3日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長17mm。
こういうアングルだと,なかなかよさそうな蛾に見えるではないか。
腹背の毛の黒が,翅の黒帯にちょうど連なっているのが面白い。
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社
○『原色日本蛾類図鑑』;保育社
(07年12月30日初稿)(08/02/08,09/20改)
yyzz2;虫画像 虫よもやま