マルモンキノコヨトウ Bryomoia melachora (Staudinger)

ヤガ科Noctuidae キノコヨトウ亜科Bryophilinae

マルモンキノコヨトウ

06年8月26日。苫小牧市樽前錦大沼公園アルテン,温泉施設看板。


100円ショップで買ったノギスを近づけて計る。前翅長8mmだ。うーん,小さい。

もっと大振りだったら,この個性的な模様はもっと人々の目を引きつけたに違いない。ヤガだから「腎状紋」だろうが,まん丸の紋が花弁のようになっている。眼にも見える。フェイスシャドウが乗って鼻の穴まで見立てれば烏天狗のようだ。

さすが「丸紋茸夜盗」。


おかげで同定は難しくない。図鑑では小さくて何だか分からないが,ネットの「みんな蛾」でコヤガあたりからヤマを張っていけばその内に行き当たる。


もっと注目されてもいいはずの蛾なのだが,ネット検索では寂しい限り。定番の蛾図鑑サイトがフォローしているばかりである(海外サイトさえヒットしないのは分布の関係でやむを得ないとして。東北アジアの蛾なのである)。

こういう,難しくないし個性もあるのにスルーされている虫に光を当てるのが本サイトの使命の一つである(一つって,その他は? もちろん今はまだ言う時期ではない)。


学名は「Bryomoia melachora」。属名は「苔(ギリシア語はbryon,ラテンではbryum)」から。本当なら「コケガ」なのだがヒトリガ科に取られているので「キノコ」に読みかえているらしい。結構違うぞ。

種小名は「mela 黒い+chora」。「chora」はおそらく「コーラー 場所」だろう。


資料があまりないので図鑑を読み比べようか。

マルモンキノコヨトウ

同年同日。


まず,北隆館『大図鑑T』。

触角は単純。前翅基方は暗褐色だが,外半は広く緑白色を呈し暗色円形の腎状紋をもつ。前翅長:9mm。8月に山地で得られるが余り多くない。この種の幼虫は未知である。(p.107)

次,保育社『蛾類図鑑下』。

開帳16〜19mm。下唇鬚第3節は短い。♂の触角は繊毛状。前翅の半分,基部の方は黒みを帯び,腎状紋に黒い縁どりがあり,中央で著しくくびれている。後翅裏面の横線ははっきりせず,横脈紋も小さい。腹部第4節の背面には先の黒い毛塊がある。8〜9月に山地・寒地で得られるが,あまり多くない。(p.66)

背中の毛の話が出てくる。ズームしてみよう。

マルモンキノコヨトウ

確かに毛玉のようなものがあるが,「第4節」なんだろうか。講談社『蛾類大図鑑T』の記述の方が正確に思われる。

♂の触角は微毛状。腹部第1−4節背面に冠毛を有し,第3節において最大,前翅外半は緑白色。1属1種。 (…) ♂交尾器はむしろケンモンヤガViminiaなどとの関連を示しており,分類上の位置もさらに検討を要する。幼生期は全く不明,地衣を食うものと推定する根拠はない。 (…) おそらく年1化,8月に出現する。(p.683)

後半,なにやら不穏なムードのただよう記述だが,とりあえず背中毛の話にしぼろう。

第4節が見えないが,ワン・ツー・スリーで3つまで毛玉が確認できる。どうやら軍配は『蛾類大図鑑T』にあがりそうだ。今後見つけることがあったら,背中に注意して観察したいと思う。


どうも図鑑の書きっぷりをみると,種小名は「黒と緑」のつもりみたいだ。


ところで「幼生期は不明」。こういう金にならない(研究費のつきにくい)領域はアマチュアの出番である。だれかやらないものか。

わたしは生き物を飼えないのでだめ。どんな生き物もたちまち死ぬのが常である。

そういえばヘゲシアスというヘレニズム期ギリシアの哲学者は「死への勧誘者」と呼ばれていたっけ。

○日本産蛾類大図鑑T;講談社

○原色日本画類図鑑下;保育社

○原色昆虫大図鑑T;北隆館


(07年12月24日記)

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