07年8月20日,苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長11mm。小さな蛾。
人面あるいは猛禽の顔を翅にあしらったケンモンヤガのように見えるのだが,探してもスカ。ならば,こういう胴体のスタイルはキノカワガ? だめ,サイズが合わない。キノカワガは前翅長が20mmある。個体変異で1/2は普通は無理。
迷宮入り寸前で発見。Σ(゚д゚)! イチモジキノコヨトウだった。キノコヨトウなんだあ。知らなければ見つからないぞ。運がよかった。
キノコヨトウは盲点に入りやすい。正確に言えば認知度が低い。
「運を無駄遣いしない」と称して,わたしはギャンブルや宝くじスピードくじの類を一切やらない人間なのだが,結局こんなところで運を消費しているらしい。人生の本筋の方は一向に好転しない。虫に人生の天秤が傾いてしまったのかもしれない。嫌だなあ。
06年8月14日,苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長11mm。
太い腹がむき出しになっているように見えるが,実際は上翅の後縁で覆われている。腹の輪郭の線は翅の模様。「一文字」の由来だろう。どうしてこんなデザインになるものかねえ。適応上不利にならなければ,遺伝子のいたずらがそのまま保存されてしまうのだろうか。
この位のサイズなら,とりあえず地味にしていれば鳥対策はきっと充分。後はお好みでといった所か。もっとも小さければ小さいで,小型のクモの網を突破するパワーが不足したりする。こういうのも運とか運命とかなのだろう。たまたま投げ込まれた方向へと進化を進めるしかない。
学名はBryophila granitalis。
属名は「苔+好むもの」。和名の「キノコヨトウ」よりも生態的に正しい。
種小名は「花崗岩のような」である。花崗岩と言われても色々だからなあ。確かに鱗粉がざらざらした感じではある。あるいは「グラニット織り(花崗織り)」をイメージしたものかもしれない。
同日同場所,同個体。なかなかいい面構えである。触角が隠されているのが残念。
せっかくだから図鑑読み比べ。まず保育社『蛾類図鑑(下)』。
♂の触角は繊毛状で,下唇鬚第3節は大へん短い。前翅の内横線,外横線はきわめて明らかで,第1室には外横線の外側から外縁にかけて黒条がある。6〜9月にわたり各地で普通に得られる。(p.65)
次,北隆館『昆虫大図鑑T』。
この属では♂♀とも触角は単純。前翅は細長く暗灰青色で,中央部と亜外縁線は褐色をおびる。この属ではもっとも大きく,(…)。浅い山地・平地で7〜9月に得られる。(p.107)
説明のポイントが違っている。補完する関係? ちなみに講談社『蛾類大図鑑』では,触角と下唇鬚と幼虫の記述のみ。成虫の翅の模様についてはノーコメントである。
ついでに言えば,北隆館『コンパクト版 原色昆虫図鑑T』および北海道大学出版会の『札幌の昆虫』ではキノコヨトウ亜科そのものがスルーされている。なんだかなあ。そんなことだから当HPでの優先順位が高くなるのである。
ところで「みんな蛾」で「イチモジ」を検索すると11種がヒットする。何がどう「イチモジ」なのかよく分からない蛾がほとんどである。
これが蝶の名前だと「イチモジ」ではなく「イチモンジ」になる。イチモンジチョウとイチモンジセセリである。使い分けになんとなく差別の匂いを感じるが,確かに向こうは正しい「一文字」をしているからなあ。仕方ないかあ。
(厳密には蛾でも「イチモンジ」は3種いる。でもねえ)
○『原色昆虫大図鑑T』;北隆館,1965
○『原色日本蛾類大図鑑(下)』;保育社,1971
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社,1982
(08年01年02日初稿,02月23日改稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま