06年7月26日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長のメモでは25mmとあるが大きすぎる。計測ミスかもしれない。
アオケンモンはケンモンヤガの中では変わり種である。樹の皮を削って剥いだような模様といい,怪獣みたいに立ち並んだ腹背毛といい,冠毛といい,これはただ者ではない。使い込んだ武具に身を固めているようにも見える。
一度見たら忘れないと言ったらわたしの記憶力では嘘になるが,とにかく個性的である。
08年07月20日。前翅長21mm。苫小牧市字樽前錦大沼公園アルテン。
新鮮な個体だと苔色の渋い緑が翅を薄く浸している。なるほど青ケンモンである。
ケンモンヤガに見えるかというと,やっぱり心許ない。第一印象は,「何かマイナーなヤガ」である。どうしてもケンモンヤガといえば,Triaena属やAcronicta属のような灰色の蛾を連想してしまう。こんなところも,この蛾のマイナーさに一役買っているのかもしれない。
学名はBelciades niveola。
種小名のniveolaは「niveus 雪のように白い」+「-olus 縮小辞」。-olusは色に使うときは「〜色ががっている」とか訳すのだが,この場合は上手い日本語にならない。いずれにせよ,色のあせた個体を使って命名したと見える。標本を用いたのかもしれない。
属名が面倒である。「-iades」は「〜の娘・子孫」は簡単。「Belc」がさあ分からない。
人名であるのは確かだから,適当に検索をかけていく。「Belkis」が引っかかる。レスピーギのバレエ曲「シバの女王ベルキス」である(どんな話であるかはサイト「後の祭り」コンテンツ「シバの女王ベルキス」が詳しい)。というわけで,「ベルキスの娘」が現在の属名の候補である。
07年8月5日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長20mm。
スレ気味の個体。緑が飛んで,頭が禿げかけている。後翅が分かるので貼り。
保育社『蛾類図鑑(下)』では,アオケンモンはこう説明される。
触角は微繊毛状に近い。下唇鬚第2節は長く上方に向き,第3節は大変細長く,他の属とはかなりちがっている。従って他の亜科におかれたが,近年ケンモンヤガ亜科にうつされた。(p.59)
最近,と言われてもいつの最近だかよく分からない。
さて問題は「下唇鬚」である。アツバみたいクチバシを連想すればいいのだろう。2枚目や3枚目の画像でも何かが突き出しているが,折れ曲がっていて口吻と区別がつかない。
というわけで,2枚目の個体の接写画像。
08年07月20日。2枚目と同個体。苫小牧市字樽前錦大沼公園アルテン。
なるほどねえ。ツノのように鼻の上に突き出してる。やっぱり変なケンモン。
それにしても冠毛のデザインが無闇に立派だ。もっとメジャーになって欲しい蛾の1頭である。
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社,1982
( 06年01月01日初稿, 08/02/23,08/12/28改稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま