11年7月5日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長9mm。
ほとんどの人が見ようとしない,わたしが生きていくことにはおそらく何の寄与もない,小さな虫が少しずつ,「わたし」の「視野」に入るようになってきている。このシロオビクロナガもそういう1頭。
ツトガやハマキガに似ていてしかも科が違っている蛾は沢山いるが,シロオビクロナガは紛らわしくない。和名の通りの白い腹巻きと,すり切れた羽根ぼうきのようになった触角は他の蛾からはっきり区別される。
07年7月15日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長5mmほど。
シロオビクロナガは「白帯+黒+菜蛾」であって,「白帯黒長」ではない。「小菜蛾(コナガ)科」の蛾である。
しかし「菜蛾」という日本語に何か根本的な無理があるような感じがする。やっぱり「長」に思える。コナガの方は第一勘は「粉蛾」である。
06年7月2日。苫小牧市高丘,緑ヶ丘公園。
それじゃあ,この「黒菜蛾」が菜っ葉を食べているかというと,実はよく分からない。サイト「みんな蛾」や講談社『蛾類大図鑑』では不明扱い。
何か手がかりを求めて「UK Moths」を調べてみると,近縁種のEidophasia messingiellaが出てきた。白帯は同じだが,後ろの方の白紋がない蛾。こちらでは食草に触れられている。
この非常に特徴的な蛾は,食草であるhoary cress (Lepidium draba)と密接に結びついているために,荒れ地で見られる。
hoary cressとは何かというと,学名で検索してみると和名を「アコウグンバイ」とか「イヌグンバイナズナ」というアブラナ科の植物である。ペンペン草系の雑草で日本にも帰化しているらしい。
日本のシロオビクロナガも,きっとこの手のマイナーな雑草を食べているに違いない。「oNLINE 植物アルバム」ではLepidium属の植物(マメグンバイナズナ属,とされている)が9種とりあげられている(「マメグンバイナズナ属の検索結果」)。
野草に詳しい人にしか分からない領域で,この蛾は生きのびているのだろう。本家コナガのようにキャベツやブロッコリーに食指を動かすまでは,人々の注目を浴びることはあるまい。小型の蛾に関心のあるわずかな人々が捕らえたり,カメラを向けたりするだろう。
06年7月2日。苫小牧市高丘,緑ヶ丘公園。同一個体。
学名については『生物学名辞典』にちょうど載っている。
01 eidos 外見,姿,形(イ) Eidophasia albifasciata シロオビクロナガ(蛾,スガ科)。属名:(ギ)eidos+(ギ)phasis 表現,言明。美しい姿を表現した学名。種小名:(ラ)albifasciatus の女性形,白い帯(状斑紋)のある。
(p.185)
種小名と和名とが一致しているが,命名者がおそらく日本人だからだろう。また,科については現在はコナガ科に格上げになっている。
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社
○平嶋義宏『生物学名辞典』;東京大学出版会
(08年02月06日改稿)
yyzz2;虫画像 虫よもやま