コナガ Plutella xylostella (Linnaeus)

コナガ科 Plutellidae

コナガ

06年4月21日。北海道苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長10mm弱。

■コナガとの出会い

蛾を撮り始めたのは06年の夏からだから,初めての春シーズン。初心者のわたしはこの蛾を「ツトガ類」と思いこんだ。

今見れば外縁(お尻の方)の反りも,鼻先の短さも,縞の触角もツトガではない。当然同定は困難を極め,結局「みんな蛾」に同定依頼。解答は一言で切り捨てられた。

コナガでしょう

その名前は知ってはいた。有名な害虫で普通種であるということも知っていた。姿を知らなかった。

ちょっとしたショックを受けて,全く不明を恥じた次第。コナガは忘れられない蛾の1頭になった。向きの違う画像が「みんな蛾」の「コナガ」に登録されている(重複画像の多い普通種でごめんなさい)。

■害虫としてのコナガ

コナガ

06年5月17日。北海道苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長7mm。


コナガは「小菜蛾」の名に恥じず,キャベツやブロッコリーの重要害虫である。何が大変かというと,卵から成虫までのサイクルがとにかく短い。講談社『蛾類大図鑑』から。

我が国の温暖地域では,(…),大阪付近では年10回以上の発生,盛夏期には20日間で1世代を完了する。

(p.207)

さすがにショウジョウバエ(10日)にはかなわないが,それでも速い。1cmない蛾だから1頭1頭のかさは小さいとはいえ,ひっきりなしに囓られている状態だから作物はたまったものではないだろう。

また,英国系蛾サイト「UK Moths」によれば,移動性も高いらしい。これは凶悪である。

■寄生バチの生態あれこれ

農薬などによる対策はネットで検索してもらうことにして,ここでは農文教『天敵大辞典 生態と利用』(農文教篇)をひもといてみる。

この本の面白いところは「寄生蜂情報」の多いことである。コナガに寄生する蜂は6種類採り上げられている。ちょっと紹介。

引用ではなく,わたしによるまとめである(ページ数はすべて上巻のもの)。

【卵に産卵するもの】
キイロタマゴバチ(土着pp.239〜241)
1mm弱の黄色い赤目の小蜂。ヨトウガ・コナガなど柔らかい,鱗毛のない卵に産卵する。
成虫が寄生卵に穴をあけて出てくるまで25℃で9日,30℃で6日。
【幼虫に産卵するもの】
コナガサムライヒメコバチ(土着pp.275〜280)
2〜3mmの黒い小蜂。コナガの1〜4齢幼虫に産卵する。寄生された幼虫は摂食量が減る。
4齢幼虫から脱出して繭を作るが,アオムシコマユバチとは異なり1青虫に1繭である
1サイクルは25℃で2週間。気温の高い方が寄生率が上がる。コナガの自然制御にもっとも寄与している種と考えられる。
 
コナガヒメコバチ(土着pp.281〜285)
5mmの金緑光沢の黒い小蜂。1〜4齢幼虫に産卵し,寄主の蛹の中で蛹化する
1つの寄主から2〜16頭が羽化する。発生回数は3〜5化。
 
ニホンコナガヤドリチビヒメバチ (土着pp.291〜295)
4〜6mmの黒い蜂。1〜4齢幼虫に産卵
コナガが繭を作って前蛹になった時に,蜂の老熟幼虫が脱出し,繭の内部に自らの繭を作る
3〜5化であるが,高温に弱く,盛夏に寄生が見られない。他の主要寄生蜂に比べると一般に寄生率が低い。 
 
セイヨウコナガチビアメバチ(資材pp.163〜168)
ヨーロッパ産の導入天敵。全種よりもやや小さい。
生態は前種と同じだが,コナガ攻撃能力(コナガ発見能力・産卵数)は土着寄生蜂より高い。25℃を超えると活動が低下する。商品化はされていない。
【蛹に産卵するもの】
コナガチビヒメバチ(土着pp.287〜290)
5mmの黒い蜂。コナガの繭に産卵管を挿入し,蛹に産卵する
寄主内で蛹になって羽化する1寄主に1頭寄生
羽化までは25℃で12日。暖地では5〜6化と見られるが,北日本では7中〜8初しか寄生が見られない。

寄生蜂といっても生態は多様である。

コナガではないが,ハモグリバエに寄生する蜂の中には寄主幼虫を刺し殺して,そこに産卵する種まである。幼虫は死体を食べて育つ訳である。

農家にしてみれば,卵に寄生してくれるものが効果が一番速くてよさそうである。被害が出る前に殺れ。他の蜂では,コナガ被害が減るのは次世代から。


ところで,成虫の蜂は花の蜜で栄養を取るので花を植えろとか書いてある。近隣の薬剤使用も気になるだろうし,天敵利用は結構面倒くさいのである。

■学名のこと

コナガの学名はPlutella xylostella。属名は,富の神Plutosに由来する。種小名は「樹木+星」。背中の菱形模様から?

コナガ

06年5月17日。同一個体を上から。画像はあまりきれいな菱形にはなっていない。撮影者の不徳の致すところである。


英名はDiamond-back Mothという。ダイヤモンドなんて労働者のわたしには無縁なものでイメージがほとんどないのだが,ウィキペディアで調べると(「ダイヤモンド」の項),要するに◇型をダイヤモンドと呼ぶとのこと。

そういえば,トランプはそうだった。


わたしはこの蛾をまだ春から初夏にかけてしか見ていない。北国の短い夏に灯火になんて来ていられないということだろうか。

○『日本産蛾類大図鑑』;講談社


(08年02月06日改稿)

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