06年7月4日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。前翅長10mm強。
図鑑では5〜10月となっているが,苫小牧ではアシベニカギバは夏の蛾。
虫撮りはもっぱら夜回り専。
補助のライトを使わないから,薄暗い中で黒い影に向かってシャッターを切ることがしばしばある。カメラのディスプレイの中をのぞき込んではじめて蛾の色合いが分かる。
予想していなかった,鮮やかな色や美しい模様が浮かび上がることがある。思わず心臓の鼓動が早くなる。こういう夜に虫撮りに出た自分を幸運だと考える。1枚だけで逃げられてはならないと考える。その他いろいろ考える。
このアシベニカギバを撮った時もそうだった。夜の虫撮りの楽しさ。
アシベニカギバの翅には2通りあって,一つが画像のように外横線が太い黄色の帯になって後翅外側に連なるもの。もう1種が,全体に褐色で外横線が細い黄線になっていて,クロスジカギバに類似するもの。
同日,同場所。別個体。わたしはまだこのタイプとしか出会ったことがない。
保育社『蛾類図鑑』では次のように説明されている。
本種には前後翅に黄色斑を有するものがある。これをf,calceolaria Butlerといい,従来キオビカギバと呼ばれていた。(下巻,pp.5〜6)
「f,」(正しくは「.」。旧式か誤植か)というのは,分類学上の「品種」の略記。例えば,サラブレッドはイエウマの一品種である,という使い方。
この品種名は講談社『蛾類大図鑑』では取りあげられていない。要するに使わないのだろう。ちなみに「calceolaria」とは「小さな靴のような」である。
でも「キオビカギバ」というのは結構いいネーミング。もったいない。
和名の「アシベニカギバ」ははじめ「葦/紅カギバ」かと思っていたのだが,案の定間違いで,「脚紅/カギバ」だった。
06年7月12日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。
確かにその通りに脚は赤いのだが,どうしてわざわざこんな箇所に目が行くのだろう。実は近縁種のクロスジカギバだって立派に「脚紅」なのだが。
学名はOreta pulchripes。
属名については,アケメネス朝ペルシアのサルディスの知事の一人であるOroetes(ギリシア名)に由来すると考えられる。おそらく深い意味はない。
種小名pulchripesは「かわいらしい+脚」。学名といい和名といい,脚フェチばかりである。個人的な趣味としては,共感できるところは多くない。
同日,同個体。
だいたいこの程度の大きさの蛾。この個体は前翅長13mmほど。
○『原色日本蛾類大図鑑(下)』;保育社,1971
○『日本産蛾類大図鑑』;講談社,1982
(08年02月09日)
yyzz2;虫画像 虫よもやま