オオアヤシャク Pachista superans (Butler)

シャクガ科 Geometridae アオシャク亜科 Geometrina

オオアヤシャク

06年8月26日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン駐車場。舗装に貼り付いているところ。

■オオアヤシャク,青くないアオシャク。

画像では分かりにくいが,大振りの蛾である。前翅長30mm。とはいえスズメガやヤママユの類にはかなわない。普通にいえば,さしずめ中型蛾という位置付けだろう。

日頃5mmぐらい虫をどう撮るか勝負のことが多いので主観的には十分に大物。


「青尺」亜科だが,青くない。灰色である。「銀ねず色」と表現すべきか。みすぼらしい感じではなく,きらきらした輝きを持っている。「綾尺」の名の所以だろう。わたしの力ではそこまでは撮れない。

フラッシュを一杯に浴びせてはじめて見えてくる美しさもあるし,陰影の中から生み出される美しさもある。どちらかといえばこの蛾は後者に属すると思う。

■オオアオシャクの学名。

学名はPachista superans。属名は「pachys 厚い,がっしりした」の最上級 pachistos を女性化したもの。「最もたくましいもの」(本当は「肥っている」としたいのだけれども女性だし)。種小名は「supero優っている(要するにスーパーである)」の現在分詞である。

なかなか並外れた印象を与える学名である。

北海道に分布している「アヤシャク」はこのオオアヤシャクだけ。内地には他にもアヤシャクがいるが,そちらはPingasa属に分類されている。見た目では外横線(翅の外寄りの方の線)の波目がオオアヤシャクに比べてくっきりしている。

■貼り付く蛾。

オオアヤシャク

07年8月9日。前翅長29mm。苫小牧市字樽前錦大沼公園アルテン。

新鮮な個体は光の加減によってはわずかに緑味を帯びる。


シャクガはたいていは前翅前縁を真っ直ぐにそろえて,押し花のようにピッタリと貼り付いているのが常である。あまりに平面的なので観察していてとりつく島がない。翅を立ててくれれば裏面の紋(他のサイトの画像では結構チープな感じ)を見ることができるのだろうが,貼り付いているのでどうにもならない。

これぐらいのサイズの蛾が翅を立てていると相当見栄えがするはずだ。でも期待薄。運が十割。

とりあえず寄ることはできた。

オオアヤシャク

08年8月23日。前翅長31mm。苫小牧市字樽前錦大沼公園アルテン。

眼が大きい。胸背に毛は豊かである。触角が一応ちょっとだけ櫛歯になっている。

■図鑑読み比べ。

図鑑はあまり詳しく書いてくれていない。特筆すべき種ではないのだろう。

でも引用は好き。まず,保育社『蛾類図鑑上』。

開張 ♂ 45〜55mm,♀ 65mm内外。触角は♂で櫛歯状,♀では絲状。大きさには変化があり,特に♀では開帳70mm内外に達することもある。6月中旬〜9月下旬の間に出現し,関東や関西の,平地や浅い山地に多い。

(p.168)

となると,1枚目の個体は♂だろうか。前翅長が30mmだから開張が合わないが,図鑑のものは展翅しての計測に違いない。図版を見るとはたして翅が「V字」になっている。シャクガは「T字」でとまっているんだけど… 個人的には図鑑は前翅長で,と希望するところである。

生態観察オンリーの人だってきっと沢山いるはずだし,たまたま見かけた蛾を図書館の図鑑で調べようとする一見さんだっている。開張は見た目の印象としばしば合わないのである(ましてやテント型にとまる蛾ではお手上げになる)。


次は,北隆館『昆虫大図鑑T』。

♂の触角は短いが櫛歯状。表面はオリーブ色で黒色の細線を散布する。外横線は鋸歯状。(…)前翅長:28〜37mm。6〜9月に出現し,山地・平地に多い。

(p.117)

上手いものだなあ。「オリーブ色」って,オリーブといえば洋酒のつまみみたいなのしか頭に浮かばないので言葉が出てこない。


講談社『蛾類大図鑑』。

触角は♂♀とも櫛歯状だが,♂の方が枝が長い。北海道(ほとんど全域),本州,四国,九州,朝鮮に分布する普通種。 (…) 温暖地では9月にも成虫がとれるので,年2化かもしれない。

(P.430,強調引用者)

「触角は…」。あれ,困ったなあで図版を引っ張りだして比べる。♂でよさげである。

読み比べていくと,『蛾類大図鑑』はしばしば先行する図鑑の記述の訂正を意識的に忍び込ませているのが見えてくる。分布の記述も同様。

分布についてなら「新たな知見」の反映だろうが,「触角の形状」の訂正が生じるのはどういうことなのだろう。不完全な標本による錯誤? そこら辺の裏事情は素人であるわたしには不明である。

触角が観察できる画像。

オオアヤシャク

07年8月9日。前翅長30mm。苫小牧市字樽前錦大沼公園アルテン。

■幼虫のこと。

あれこれ調べていて分かったこと。この蛾は幼虫の擬態が面白そう。

食草はモクレンやホオノキ。つやつやした,ボカンと大きい葉っぱをしたおなじみの樹だ。落ち葉の時期には,いきなり大きな葉が上から降ってきてびっくりする。幼虫はその伸びかけた若芽にそっくりなのである。

なぜかこの幼虫は,学研『日本産幼虫図鑑』から漏れている。深く遺憾とするところ。

というわけで,サイト「幼虫図鑑」の「オオアヤシャク」が詳しい。


まだ,実物には出会っていない(出会っていたらここにアップしているはず)。公園でホオノキが生えている場所は知っている。いつ頃がいいかな。この写真が8月終わりだから,7月中〜下あたりが狙い目だろうか。

○『原色日本蛾類図鑑上』;保育社

○『原色昆虫大図鑑T』;北隆館

○『日本産蛾類大図鑑』;講談社


2007/3/4 初稿,08/12/26改

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