ツマグロマキバサシガメ Stenonabis extremus Kerzhner

マキバサシガメ科 Nabidae

ツマグロマキバサシガメ

05年8月8日。苫小牧市錦岡。コンビニ灯火で。


分布は北海道と極東ロシアのみ。環境省の2000年作成レッドリストで「絶滅危惧II類(VU)」(絶滅の危険が増大している種)に指定されている。レア物なのである。

地元の北海道ではもう少し落ち着いていて,「北海道レッドデータブック2001」では「留意種(N)」に分類されている。

保護に留意すべき種または亜種(本道においては個体群,生息生育ともに安定しており特に絶滅の恐れはない)

「レッドデータブックカテゴリー」

とのこと。とりあえず大丈夫らしい。


絶滅種などと言われると,いかにも「見るからに珍しそうな」生物を連想したりするが,大抵の危惧種はあまり目立たない地味なものたちに違いない。だれも気付かないところで,きっと身近なところで,だれにも知られずにひっそりと消えていく種がこれまでも,そしてこれからもい続けるのだろう。


※追記(06.08.13):平成19年にレッドデータの見直しが行われ,ツマグロマキバサシガメは「準絶滅危惧(NT):現時点では絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種」へ格下げになっている(上記リンク先参照)。

どうやら絶滅の恐れから一歩遠のいた模様である。どうかこのカメムシが生存できる環境が維持されますように。


苫小牧は絶滅危惧種のカメムシがまだ身近なところに訪れる,まだそういう自然環境が残されていると発信すること。それはツマグロマキバサシガメを見つけてしまったわたしの義務のような気がする。そういう縁に違いない。


ツマグロマキバサシガメ

05年8月15日。苫小牧市錦岡。同じコンビニのゴミ箱の上。


このカメムシの同定は「虫@ふたば」で専門の人にしていただいた。1枚目の画像についてのレスである。

… 無題  05/08/14(日)22:00:36 No.129924 Stenonabisですね。
撮影地は北海道ですか?
ツマグロマキバサシだったらネットで流れる最初の生態写真だよ。

… 無題  5/08/14(日)22:01:17 No.129926
ちなみにこやつはマキバサシガメという仲間で
サシガメとはちょっと違います。
どっちかというとハナカメムシに近いなかま。

… 無題 yyzz2 05/08/14(日)22:03:31 No.129929
苫小牧 8/8です.
>サシガメと違う
へぇー.そうなんですか.勉強になります.

… 無題   05/08/14(日)22:08:44 No.129934
(…)
図鑑にも載ってませんが北海道と極東ロシアに固有の珍しい種です。
レッドリストにも載っていますね。
(…)
この写真をたいせつにしてください。

わたしが感激したのは言うまでもない。わたしが今でもカメムシを好んで撮るのは,同定してくださったこの方と,このマキバサシガメに負うところが大きい。


ツマグロマキバサシガメ

07年8月13日。苫小牧樽前,錦大沼公園アルテン。乗馬場小屋で。

体長は7〜8mm。眼視では,定番のハネナガマキバサシガメの色の濃い目のものに見える。

「ツマグロ」の名は腿の端が黒いことに由来するらしい(2枚目の画像が分かりやすい)。


学名は「Stenonabis extremus」。属名は「steno狭い」+「nabis」。ナビスとは『生物学名辞典』によればスパルタの王の名前であるという。ローマ帝国の侵攻に対抗するため独裁による改革をめざし,暗殺されたそうだ。マキャベリ『君主論』にも取り上げられていて,わたしは読んだはずなのだが完全に忘れている。

種小名は「最も端の,最大の,最悪の」。どのニュアンスで名付けられたかはちょっと分からない。


ツマグロマキバサシガメ

08年8月12日。苫小牧樽前,錦大沼公園アルテン。乗馬場小屋で。


いずれも8月(苫小牧の8月の夜の気温は20℃台前半である。これも北海道の利点)の湿度の高い,あるいは小雨気味の夜に出会っている。そういう気候が好ましいらしい。


今年はこのカメムシに,また,まだ出会うことができるだろうか。


(07/08/27,08/08/12改稿)

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