スコットカメムシ Menida disjecta Uhler

カメムシ科 Pentatomidae

スコットカメムシ

05年9月18日。苫小牧市字樽前,錦大沼公園アルテン。体長10mmの小振りなカメムシ。

■侵入するカメムシとしてのスコットカメムシ

北海道の,特別に虫に関心があるわけでもない善良な一般市民たちにとっては,カメムシは晩秋に室内に侵入してくる不快な存在でしかない。

彼らが眼にするのはおそらく2種類。大きめなのがエゾアオカメムシ。小さめなのが,このスコットカメムシだ。

このカメムシが出てくるのは9月10月から。お盆も過ぎて,一気に秋に向かう時候である(北海道に残暑らしい残暑はない)。ということは夏の間に幼虫がいるはずだが,まだ未見である。

図鑑を調べると,

山地の闊葉樹上(引用者註:かつようじゅ。広葉樹のこと)で生活する。8月末ヤマハンノキの小枝上に終齢幼虫が群生しているのを観察したことがある。

(北隆館『昆虫大図鑑V』,p.79)

山地のケンポナシ,シナノキ,キリ,ヤマハンノキ,ミズナラ,ダケカンバ,ブナ,シラカンバ,オオバマユミ,タラノキなどの植物に寄生し,(…)

(全農協『カメムシ図鑑』)

とのこと。基本的に樹上のカメムシであるらしい。眼にしない訳である。


室内侵入の生態については「イカリ消毒」のサイト「これであなたの家から不快な虫がいなくなる | スコットカメムシ」が詳しい。

新成虫は8〜9月に発生し、10月に集合する。交尾後の成虫は、晩秋の晴天温暖な日に一斉に飛び立ち、越冬場所を求めて日当たりの樹木の幹や、暖かな建物の外壁面に飛来する。樹木と建物の間を行き来したり、建物の外壁を暫く徘徊した後、3mm〜数cm程度の隙間を見つけて潜り込む行動を繰り返し、やがて窓の隙間や換気扇口、給排気口などから屋内に侵入してきる。

うーん,よく分かるなまなましい解説だなあ。

■スコットカメムシの小楯板

スコットカメムシ

05年9月18日。苫小牧市樽前,錦大沼公園アルテン。上のものとは別個体。

スコットカメムシは特徴がはっきりしていて分かりやすい。膜質部(後ろの翅の箇所)が長く,小楯板(中央の▽の所)の末端がくっきり白く,下部に波状の紋がある。骸骨の肋骨を連想させるが,これは下画像のようにあまりくっきりしていない個体もある。

スコットカメムシ

06年9月17日。北海道苫小牧市樽前,錦大沼公園。

全農協『カメムシ図鑑』では,小楯板の模様は「基部中央に大きな黒色の紋があり」(p.232)と表現される。一方,北隆館本では「基部は広く黒色」(p.79)とある。わたしのような文系の虫好きにはこういう見え方の揺らぎが面白い。

■学名のこととか

学名は「Menida disjecta」。

属名については以前から首をひねっていたのだが,『生物学名辞典』によれば「menis怒り」から。危険なカメムシらしい。もっと真面目に文法を勉強しないといけないことを痛感。

(130225追記)ふと思いついてラテン語の辞書を調べると,「menis」は「半月」である(Dictionnaire Gaffiot français-latinなど)。ギリシア語では「怒り」なのだが,ラテン語では「半月」の意味に転じたものらしい。属名でラテン語は珍しいので見落としていた。それなら,小楯板の端の白い部分によく対応している。

種小名は「分散させられた」。このカメムシの何かを表現しているのだろうけど不詳。かつての種小名は「scotti スコット(カメムシ研究者の名)の」で,和名の由来である。ところが最近,これがdisjecta種と同一であるとされた。学名変更でscotti消失。

新しい学名が定着すれば何が「スコット」なのか分かりにくくなる。とはいえ,今更和名を連動させるのも混乱を招くだろう。

■「スコットカメムシは肉食か?」

スコットカメムシ

06年10月29日。苫小牧市高丘,緑ヶ丘公園。

以前,岡山大学農学部のサイトに「スコットカメムシは肉食者か!?」という記事があった(現在はない。保存し損なった。失敗)。このカメムシは幼虫時代に他の昆虫や昆虫卵を捕食して栄養を取らないと成長しない(栄養不良?で死ぬ)そうである。

種子の栄養分がないと成虫になれなかったり,卵が成熟しないカメムシもいるし,要するに,草の汁なんて栄養分が全然ないということに違いない。アワフキムシ程度のサイズならともかく,カメムシサイズでは栄養が足りないのだろう。

セミが地中で何年も過ごすのは,慢性的な栄養不足のせいかもしれない。

○『原色昆虫大図鑑V』;北隆館

○『日本原色カメムシ図鑑』;全国農村教育協会


(08年09月07日 改稿)

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