06年7月8日。苫小牧市内。大きくはない。5mmほど。
昼休み。たまに職場の周辺を探索する。その日はヒメウラナミジャノメが1頭。コメツキムシが旬らしく,沢山。それらに混じって知らない虫が壁に1頭。それが上の画像である。
「虫@ふたば」に貼って「ナガヒョウホンムシ」とのレスを得た。強力常連陣にはいつもながら感謝。
それにしても,である。ナガヒョウホンムシなんて見るのも初めて,耳にするのも初めて。ひょっとしてレア物か?
ネットで検索。違ったあ。一部ではかなりおなじみの虫だった。何が一部かというと,「害虫」業界。だいたいが「長標本虫」。少なくとも標本をかじったりする,カツオブシムシの相方に違いない。
Wikipediaの「甲虫類」で分類学上の位置を調べる。やっぱりなあ。シンクイムシやシバンムシやコクヌストの近縁だ。ヒョウホンムシも「乾物屋」に決まり。見ようによってはカミキリムシの小さいのに見えないこともないのだが…。
同年同日。素早い虫ではないが,それなりに落ち着きがなく,結構動き回る。かくしてブレ画像で失礼。
保育社の『原色日本甲虫図鑑(V)』を繰ると,ヒョウホンムシ科の記述はなんと「検索表」のみ。 工エエェェ(´д`)ェェエエ工工。
前胸背板は中央前方に大きな一対の隆起をもち,その後方から基部のくびれにかけて,ひじょうに密な綿毛塊をもつ。上翅は白色帯毛以外に,短毛とひじょうに長い立毛をそなえる。2.7〜5.0mm。 (pp.137〜138)
その通りには違いないのだが…。さすがに調べる側としては物足りない。生態も知りたいのだが。さもないと勉強にならない。
図書館の棚から。この本も欲しいなあ。日本家屋害虫学会編『家屋害虫事典』(井上書院)。
本種は日本のヒョウホンムシでは珍しく,ホストの報告が多い。これまでに報告されたものは,コンニャク粉,貯蔵豆粕,米穀,アワ,コウリャン,オートミール,トウモロコシ粉,米糠粉,毛織物,キノコの一種,標本昆虫,煮干,鯉用固形飼料がある。しかし,生態に関する記述はきわめて断片的で,飼育実験などの系統だった観察はない。これまでのいろいろな報告からは,好条件下で年2〜3世代を繰り返すこと,越冬は成虫または幼虫で行い,成虫は正の走光性をもち,耐寒性が強く,冬季でも活動し,灯火に集来すること,幼虫はホストを綴って巣室をつくり,その内部からホストを食害することなどがわかっているにすぎない。 (pp.264〜265)
「加害の中核をなすことはあまりないであろう」(p.265)虫だけにあまり調べられていない模様。
そもそもこの手の害虫が,人間の進出以前に野外でどう生活していたかは興味のあるところである。どこかで何かの商売をやっていたには違いないのだ。
当然のように一般の害虫駆除系サイトでは野外生活については触れられていない。ヒントになりそうな情報源をとりあえず2つ見つけた。
その1。「マメコバチ研究所」のサイト。受粉用のコツノツツハナバチの生産販売を行っている会社である。「マメコバチの天敵」のページにナガヒョウホンムシが出てくる(一番下)。ここのナガヒョウホンムシ情報量は多い。
それによると,ナガヒョウホンムシはツツハナバチの巣(ヨシの茎に作られる)に産卵し,幼虫は巣の中の糞や花粉くず,更にはハチの繭を食べるということである。
ミツバチやスズメバチの巣の下に居住して上から落ちてくるゴミを専門に食べている虫もいることだから,このナガヒョウホンムシも昆虫の周辺で廃棄物業者をしているのだろうか。
2つ目。池田博明編「クモ生理生態事典」。労作としか表現しようのないクモのデータ集である。この中の「ジョロウグモ」の項にナガヒョウホンムシが出てくる。
卵寄生するナガヒョウホンムシがいる.(…)〔千国安之輔.1983.クモの一生. 偕成社〕
データが少ないから憶測でしかないが,この虫は昆虫周辺で活動して,屑を主食に,チャンスがあれば幼虫や卵を食べて生活している虫だろうと思われる。
上の画像の虫は建物の壁で見つけたものだ。一体彼女(恐らく体型から♀である)は何を食べてきたのだろう。
学名はPtinus japonicus。属名の由来はどうやらギリシア語の「phthinas 消耗」らしい。hがぞんざいに扱われているが学名の世界ではよくあることである。種小名は「日本の」。「日本で最初に記載され」た(前掲『家屋害虫事典』,p.264)ことから。
yyzz2;虫画像 虫よもやま